「望遠鏡を買ったら、次は頑丈な三脚、水平器、暗い場所、赤道儀、画像処理ソフト……」。子どもが天体写真をやりたいと言ったときに親が味わう「あれも欲しい、これも欲しい」を、講師は「ちょっとこれはないんじゃないか」と言いました。浜町の DWARF mini セミナー後半は、望遠鏡ショップ・星見屋の店長で DWARFLAB 公式アンバサダーの南口さんが、「本体だけでどこまでできるか」から話を始めてほしい理由を、仕組みごと説明した回です。
初心者に勧める側の人(家族でも、フォロワーでも、宿のお客さんでも)が「なぜ三脚が要らないの?」に答えられるようになる話なので、順番どおりまとめます。
見どころは24分あたり。手持ちの DWARF でキャリブレーションを始め、「必ず最初に真下を向く」理由をその場で説明しているところと、100枚の生データを時間順に並べた GIF が「ガッタガタ」に揺れている(=ディザリング)ところです。
講演で触っていたDWARF miniは、パンダスタジオレンタルで取り扱いがあります。「置く→電源→対象を選ぶ→撮る」を自分でやってみると、この記事の話が全部つながります。
→ 本体だけでどこまでできるか、自分の空で:
天体撮影の「常識」を5つひっくり返す
講師が初心者向けに「こう伝えてほしい」と並べた項目です。講師の言い回しをなるべく残します。
| これまでの常識 | DWARF ではどうか(講師の説明) |
|---|---|
| 頑丈な三脚が要る | 要らない。岩の上などしっかりした場所なら直置きでいい(芝生は不可)。ミニ三脚は売っているが「必要になってから」 |
| 水平出しをしてから使う | 要らない。キャリブレーションで軸のずれごと検出する(後述)。先行機種の習慣で水平器を付ける人が多いが不要 |
| 暗い空に行かないと撮れない | 都会でも撮れる。東京・大岡山のキャンパスで約20分撮った M46・M47 は惑星状星雲の色まで出た |
| 自動導入中は触るな | 触っていい。振っても三脚を蹴っても、キャリブレーションをやり直せばいいだけ。観望会で「触っちゃダメ」と言わなくていい |
| 赤道儀モードでないと綺麗に撮れない | 経緯台モードで結果は出る。弱点は天頂付近の追尾とスタック失敗だが、導入や追尾がエラーで止まることはない |
講師が繰り返していたのは、「まず本体だけで結果を出せることを示してほしい。三脚やウェッジやフードは、気になってから」ということ。あるキャンプ用品店で DWARF を扱い始めた人が、初めて M45 を撮って「これがスバルなんですね」と調べ始めた話を例に、成功体験が先、学ぶのは後という順番を勧めていました。
この話が役に立ちそうな人
- 家族や友人に DWARF を勧めたが、「三脚は?暗いところまで行くの?」と聞かれて口ごもった人
- 宿・キャンプ場で星空アクティビティを始めたいが、スタッフが天文に詳しくなく、お客さんに触らせていいか不安な運営者
- DWARF の紹介動画を作るクリエイターで、「なぜ水平出しが要らないのか」を根拠つきで説明したい人
なぜ水平出しが要らないのか:プレートソルブとキャリブレーション
プレートソルブとは、撮った写真の星の並びから「いま望遠鏡がどこを向いているか」を割り出す技術です。講師は2014年に Windows 用のプレートソルブソフトを世界で最初に日本語化した人で、「顔認識や指紋照合と同じ種類のアルゴリズム。確率で『ここだ』と言っているだけ」と説明していました。
自動導入はこれと別物で、「対象に向けてこれだけ動け」とモーターに指示すること。モーターは指示どおりぴったりには動かないので誤差が出る。そこでもう一度プレートソルブして今の位置を測り、誤差を補正して動かす。これを繰り返すのが自動導入です。
キャリブレーションで DWARF が最初に真下を向くのは、原点を確認するため。そこから3点以上でプレートソルブして「機械的に何度動かしたか」と「天球上でどれだけ動いたか」の差を取ると、軸のずれとモーターの誤差がまとめて分かる。球面上で3点を測れば自分の軸の傾きが決まる、という幾何の話です。だから「水平が出ていない」こと自体がキャリブレーションで吸収されて、水平出しは要らない。アプリの「キャリブレーション 4分の○」は、原点+3点の進み具合だそうです。
短時間露光でも写る理由:補正つきライブスタックと「光は確率で届く」
ライブスタックの主な効果はノイズを減らすこと。ノイズを半分にするには4枚、さらに半分にするには16枚、その次は64枚と、枚数は4倍ずつ要ります。観望会なら10秒×16枚≒3分で「見えるものは見える」。5分に1天体のペースで見せられる、と講師は言っていました。
DWARF のライブスタックは、ただ星の位置を合わせて重ねるのではなく、1枚重ねるごとにダーク補正・フラット補正・バイアス補正をかけ、さらにディザリング(毎回わずかに位置をずらして固定ノイズを平均化する)をしている。だから「10秒で、1分でこんなに写るの?」になる、という説明でした。100枚の生データを並べた GIF が揺れているのがディザリングで、補正前の1枚には赤い固定ノイズが点々と残っているのも見せてくれました。
「10秒で写らない星は何枚重ねても写らない」は違う
講師が昔ショップで言われ、調べたら違ったという話です。星の光は確率で届くので、10秒のそのコマでは写らなくても次のコマでは写ることがある。平均すればどれだけの明るさになるかで考えるべきで、理論上は「10秒×30枚」と「300秒×1枚」で写る限界等級は同じ。読み出しノイズや明るい星の飽和など実務上の違いはあるが、短時間露光でも結果は出る。初心者に「1枚出すのに5分待ってね」は待ってもらえないので、まず5秒・10秒で結果を出すほうがいい、という立場でした(赤道儀モードの最長露光は DWARF 3 が120秒、mini が180秒、上位機が300秒とのこと)。
画像処理ソフトは最初から要らない
ライブスタックだけでもそこそこの結果が出るうえ、アプリ内の「天文スタジオ」でクラウド側の画像処理ができ、「メガスタック」で日付の違うデータを合わせたり、納得いかない枚数を外してスタックし直したりできる。全部の生データを引き出して専用ソフトで仕上げるのは、楽しみを深めたくなってからでいい。撮れた写真はそのままスマホに入れて楽しめばいい、という順番です。
初心者に DWARF を見せるときの順番チェックリスト
| 順番 | 見せること・言うこと | 言わないこと |
|---|---|---|
| 1 | しっかりした場所に置く。三脚なし | 「三脚を買ってから」 |
| 2 | 電源を入れてスマホとつなぐ。水平は気にしない | 「水平器で合わせて」 |
| 3 | キャリブレーション中に真下を向くのは原点確認、と一言 | 「動いている間は触るな」 |
| 4 | アプリから対象を選ぶ。経緯台モードのまま | 「赤道儀モードにして」 |
| 5 | 10秒露光で、画像が育っていくのを一緒に見る(3分で1天体) | 「5分待って」 |
| 6 | 撮れた写真をそのままスマホで見せる。「これがスバル」で終わっていい | 「画像処理ソフトで仕上げないと」 |
| 7 | 気になってきたら三脚・ウェッジ・フード・天文スタジオへ | 最初に全部そろえさせる |
→ この順番をそのまま試すなら:
正直に書くと、まだ答えが出ていないところ:スターパーティー機能
アプリには、主催者が条件を決めて世界中のユーザーから同じ対象のデータを集める「スターパーティー」(共同スタック・共同モザイク)という機能があります。講師は「ものすごく楽しい仕組み」と言いつつ、星見屋としては今は紹介していない、と明言していました。理由は権利。1,000枚のうち1枚だけ出した人の作品と言えるのか、コンテストに出していいのか、賞金が出たら誰のものか、名前を出したくない人はどうするか。コミュニティの中で楽しむ分にはいいが、外に出すならルールを先に作っておいたほうがいい、メーカーにも規約の明記を求めている、とのことでした。
もうひとつ印象に残ったのは、小学4年生がスマート望遠鏡で変光星の観測を続け、光度曲線の上がり方と下がり方の非対称から星がラグビーボール状だと導いて研究発表した例。綺麗な写真に進んでも、観測に進んでも、どっちでもいい。「まずは楽しもうよ」が講演の締めでした。
レンタルで試す価値があるところ
この記事の内容は、1台借りて都内のベランダで「置く→電源→対象→10秒露光」をやれば、30分で全部確かめられます。水平を出さずにキャリブレーションが通るか、経緯台モードで3分でどこまで写るか、アプリのどこで迷うか。勧める側がここを一度通っておくと、聞かれたときに自分の言葉で答えられます。
→ 長時間露光や上位機の感覚も試すなら:
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