スマート望遠鏡を調べていると、必ずぶつかる疑問があります。「街中でも写るって書いてあるけど、本当に?」「暗いところまで行かないとダメなの?」。この2つに、同じ機材・同じ設定で、3日違いの2枚で答えます。
対象はケフェウス座のIC 1396、いわゆる「象の鼻星雲」。1枚目は東京・日本橋浜町のビルの外から、2枚目は山梨県都留市から。どちらもDWARF mini、露出15秒・ゲイン60。違うのは空の暗さと、雲とバッテリーの余裕だけです。
1枚目:東京23区・日本橋浜町。星団までは届いた
10月末のある夜、パンダスタジオ浜町でDWARFLABの体験イベントをやりました。今週も来週も週間予報は雨と曇りばかりだったのに、この夜だけ雲の切れ間から星が見えた。セミナーが終わったあと、そのままDWARF miniを外に出しました。

「日本橋浜町から。中央の明るい星の周りに散開星団Trumpler 37。星雲はうっすら赤みが残る程度。右下の斜線は飛行機か人工衛星?
中央のひときわ明るい青白い星の周りに、小さな星が群れています。これがIC 1396の中心にある散開星団。星の色の違い(青白い星と赤っぽい星)はきちんと出ていて、スタックは成功しています。ただ、本来この一帯に広がっている赤い星雲は、うっすら赤みが残る程度。「象の鼻」はどこにもありません。
「追跡中の画面。左上のプレビューに流れる雲。右下にバッテリー6%、20:14」
条件も悪かった。400枚の設定で回し始めたものの、流れてくる雲で弾かれ、スタックに使えたのは100枚ちょっと(正確な枚数は履歴で要確認)。イベントで一日使ったあとなのでバッテリーは6%。このスクショの直後に止めました。それでも星団と星の色は出た。「都心のDWARF miniの現実的な下限」として、これはこれで価値のある一枚です。
使ったのはDWARF mini。パンダスタジオレンタルで取り扱いがあります。「うちの空で本当に写るのか」は、買う前に一晩借りて確かめられます。
→ DWARF mini:
そもそも「象の鼻」って何が象の鼻なのか
正直に書くと、浜町で撮っているときは対象の名前を忘れていました。「象の花だったかな」と思いながら、あとでアプリのスクショの「IC 1396 を追跡しています。」で確認した次第です。
IC 1396はケフェウス座にある大きな散光星雲で、その中にIC 1396Aという細長くくねった暗い塵の柱があります。この太く曲がった暗黒帯が、象が鼻を垂らしているように見えるので「象の鼻(Elephant’s Trunk)」。中心の明るい星の強い光と恒星風で周りのガスが吹き飛ばされていく中、密度の高い部分だけが削られずに柱として残ったもので、柱の中では新しい星が生まれていると言われています。
つまり見どころは星団ではなく、星雲の中の暗い柱。浜町の1枚目に写っているのは星団で、鼻は写っていない。鼻を出すには、暗い空と、星雲の赤い光(Hα)を通すフィルターと、積算時間が要る。それを確かめに、3日後に山梨へ行きました。
2枚目:山梨県都留市。77分で「鼻」が出た
10月31日の夜、都留市の予報は一晩中晴れ・風1m/s。月齢20の月が21時すぎに昇る条件でしたが、IC 1396は北西、月は東なので反対側。日本橋浜町から中央道で2時間、22時に設置して導入を始めました。

「山梨県都留市から。デュオバンドフィルター・露出15秒・ゲイン60・307枚スタック(約77分)。画面下中央に暗黒柱「象の鼻」(IC 1396A)。右側にも暗黒帯」】
画面の下中央、明るい中心星の下に、暗い柱が斜め上に伸びています。先端は丸く、縁がうっすら明るく縁取られている。これがIC 1396A、象の鼻です。右側の広い暗黒帯も出ていて、背景全体に赤いHαが乗っている。浜町の1枚目と同じ機材、同じ露出・ゲインです。
引っかかったこと:気づいたらフィルターが「天文」に戻っていた
一度やり直しています。設置してパラメータ画面でデュオバンド(HO)を選んだつもりだったのに、15分ほど回したところで画面下の表示が「天文」になっているのに気づきました。切り替えが反映されていなかったのか、導入の途中で戻ったのかは分かりません。62枚ぶんを捨てて、デュオバンドを選び直してから再スタート。撮影前に、画面下の「15・60・HO」の3つを声に出して確認する、というのが今回の教訓です。
引っかかったこと2:屋根に追い詰められて終了
IC 1396は北西にゆっくり沈んでいきます。22時に高度50°あったものが、0時すぎには35°。広角プレビューで追跡マーカーが建物の軒先に近づいていき、0:25の時点で軒に重なりました。スタックの成功率も、23時台は170枚中164枚だったのが、0時すぎには385枚中307枚と落ちています。屋根にかかった分が弾かれていたわけです。ここで停止。結果、77分・307枚でした。
沈んでいく対象を撮るときは、設置の時点で「2時間後にそこに何があるか」を見ておく。これも次回に持ち越す反省点です。
温度表示と、露が乗らなかった話
アプリの右下に出ている温度は、浜町で22°C、都留でも設置直後は22°C、そこから19→18→17°Cと下がっていきました。10月末の夜の外気温ではないので、本体内部の温度だと見ています(仕様の裏取りはできていません)。都留は深夜に外気8〜9°C、ほぼ無風で、放射冷却で露が降りやすい条件でしたが、この夜はレンズに曇りは出ませんでした。本体の発熱が鏡筒まで温めていて、天然のレンズヒーター代わりになっているのでは、というのが仮説です。ただ、もっと冷え込む夜や霧の出る場所では保証できないので、USB給電のレンズヒーターを一本持っていくほうが安心です。
持ち帰り早見表:同じDWARF miniで、東京23区と暗い空は何が違うか
今回のIC 1396に加えて、ここ2か月ほどパンダスタジオ周辺(台東区・日本橋浜町・木場)と、檜原村・都留市で撮ってきた結果を一枚にまとめました。「自分の家で写るのか」「どこから暗い空が要るのか」の目安にしてください。
| 対象の種類 | 23区(台東区・浜町・木場) | 暗い空(檜原村・都留市) | うちでの実例 |
|---|---|---|---|
| 散開星団(星の集まり) | ◎ 写る。星の色も出る | ◎ | NGC 1664(台東区)、M45(浜町)、IC 1396中心部(浜町) |
| 明るい星雲 | ○ 形は出る。フィルターで差が出る | ◎ | M42 オリオン大星雲(浜町・デュオバンドと天文フィルターで比較) |
| 淡く広い星雲・暗黒柱 | △ うっすら赤み程度。形は出ない | ◎ デュオバンド+1時間強で柱まで | IC 1396 象の鼻(浜町=出ず/都留=77分で出た)、北アメリカ星雲(浜町・出来は微妙) |
| 銀河 | △〜○ 明るいものなら | ◎ 腕まで出る | M33(檜原村・腕とNGC 604まで)、M31(檜原村) |
| 月 | ◎ 曇りの切れ間でも | ◎ | 浜町 |
23区で借りるなら、最初の一晩は「散開星団か、明るい星雲か、月」を狙うのが外れにくい。淡い星雲や暗黒柱は、同じ機材でも暗い空に持っていく前提で考える。今回それが、同じ対象の2枚ではっきりしました。
→ まず自分の家の空で星団クラスを試すなら:
この機材が向いていそうな人・現場
- 東京23区のマンション暮らしで、「スマート望遠鏡って、うちのベランダから本当に何か写るの?」と半信半疑のまま購入ボタンを押せずにいる人
- 月に一度くらい山梨や奥多摩に行く用事があって、車に積んでおける小さな機材で、行った先の暗い空を無駄にしたくない人
- イベントや社内の催しで「星を見せる」企画を考えていて、都心の会場でも当日何かしら写る機材を一台確保しておきたい担当者
レンタルで試す価値があるところ
今回分かったのは「同じ機材でも、空の暗さで星団止まりか暗黒柱までかが決まる」というところまでです。分からないのは、あなたの家の空がどちら寄りか。うちの撮影場所でも、台東区は軒で高い空が隠れ、浜町は西が開けておらず、木場は南がマンションで塞がれ、都留は0時すぎに屋根に追い詰められました。軒、窓、ビルの向き、街灯の位置。これはスペック表では分からず、自分の場所で一晩回してみないと分かりません。
一晩借りれば、「星団は写った、だから買う」「星雲は無理だった、だから晴れた週末に暗い空へ持ち出す日だけ借りる」のどちらかの判断材料が揃います。上位機のDWARF 3と迷っている人は、両方を順に借りて、自分の場所で差が出るかを見るのが一番早いです。
どれを選ぶか、借りた夜に何をどの順番で押すかは、星空写真家・成澤広幸さんの動画を紹介した記事にまとめています。
→ 【関連記事URL:blog_64_01 公開後に差し替え】「それ本当に使いますか」。星空写真家がいま初心者にDWARF miniを勧める理由は、多機能じゃないことだった
→ 【関連記事URL:blog_64_02 公開後に差し替え】DWARF mini、ピントを合わせずに天体を探すと「路頭に迷う」。経緯台・赤道儀・天文スタジオまで
DWARF mini のレンタルはこちら
→ DWARF mini:
→ 淡い星雲をもっと大きく、と思った人は上位機と比べて:
用途別に探すなら
DWARFLABの機材をまとめて見たい人
最新の入荷機材をチェックしたい人
→ 新着機材一覧
体験イベント・セミナーに参加したい人
📦 「うちの空じゃ無理でしょ」は、一晩回してから言う。
23区からは星団まで、山梨からは象の鼻まで。機材は同じでした。まずは自分の家の空で、一晩だけ。
