「Blackmagicの公式動画どおりにやったのに、出るはずのアナウンスが1ミリも出ない」。DaVinci ResolveのAIアシスタント連携(MCP)を触った人が最初にぶつかる壁の話から、DRUM(DaVinci Resolve User Meeting)vol.33は始まりました。テーマは「実用レベルでAIエージェントを使い倒す」。
前半は、ゲストのダヴィンチ認定トレーナー(以下「トレーナー」)がChatGPT Codexに切り抜きショートを作らせる実演と、新品のMacでゼロから連携を設定する様子。後半は、もう一人のゲスト、IT業務システム開発と映像制作を一体でやっているDENDEN株式会社の方(以下「DENDENさん」)が「お客様からメールが来たら、人が関与せずに夜中に編集して納品まで終わる」ワークフローを見せるという、コメント欄が静まり返る回でした。約2時間を、何ができて、何に引っかかって、どこで線を引くべきか、の順でまとめます。
※この動画はパンダスタジオの動画ではありません。「DaVinci Resolve User Meeting」チャンネルの公開動画(DRUM vol.33)を、参考になった動画として紹介しています。会場はITGマーケティング様の配信ルームです。
これは動画で見たほうが早い、という場面が2つあります。1つは47分あたり、新品のMacで「ユニコーンガンダムの動画が入ってるからダイジェスト作って」とだけ打って、Pythonスクリプトが裏で走り、16カット60秒のダイジェストが色変換・音量調整・フェード付きで出てくるところ。もう1つは1時間29分あたり、PowerPointの構成書を渡しただけでFusionのモーショングラフィックスが組まれ、Dropbox Replayにバージョンが積まれていくところです。
実演で動いているのはDaVinci Resolve Studio。AI系の機能はStudio版が前提のものが多いので、試すならStudio版を手元に置くところからです。
→ DaVinci Resolve Studio(USBドングル版):
トレーナーの使い方:全部は任せない。「ご飯を食べている間に切り抜きだけ」
トレーナーが任せているのは主に2つ。横動画から縦の切り抜きショートを作る前段(切って並べるまで)と、単純なバレ消し。「メインの横動画ができたら、ご飯を食べている間に切り抜きだけやってもらう。戻ってきたらテロップを入れて出すだけ」。テロップは自分のフォーマットがあるので人が入れる、BGMは指定するから引いておいてね、という線の引き方です。
実演の指示文はこうでした。「YouTubeショート用の切り抜きを1つ作って。喋っている途中で途切れないように、切るときはできる限り無音部分を使って自然なつながりを意識すること。カメラ本体とフライトユニットがくっついて2つの使い方ができる話をメインテーマに。最後に飛ばしている映像も差し込んで。書き出し不要、並べるだけでOK。音声はモノラルでチャンネル1」。打ち間違いがあっても勝手に汲んでくれ、前回やった作業を踏まえて「飛行映像を足すところはこっちでやるね」と返してきます。
できたショートは画角もちゃんと収まっていましたが、オートリフレームではなく変形で調整していたとのこと。そして正直な引っかかりが1つ。無音部分を意識してね、と書いておいても、1回目のテストでは発話の途中で切れていた箇所があり、手で伸ばす微調整が要った。「指定しないと、マジですごい適当な切り方をする」。つまり、どこを指示しないと何が起きるかは、1回やってみないと分からない。
トークンは「ドラクエのMP」
トレーナーはChatGPTのPlusプラン。切り抜き1本の作業後に「5時間枠の残量74%」と表示が出ていました。作業を増やせば増やすほど減り、リセットは月に数回しかできないので「本当に没頭したいときの切り札」。動画生成はごっそり食うが画像生成はそれほどでもない、同じ作業でもモデルを上位の「アストラ」(動画内の呼び方)にすると約3倍食った、など、プランで使い分けが要る話が続きます。これを司会が「ドラクエのMP」と言い換えて、場が一瞬で理解した場面がありました。
もう1つ、面白かった使い方が「学習」。ウルトラワイドの片側にDaVinci、片側にCodexを出しておくと、裏でどの操作をしているかのログが全部見える。「パワービンどこ行ったっけ」と聞けば、作業しながらやり方が分かる。放送局でもそういう使い方があるらしい、と。
新品Macでゼロから:Codexでは「アナウンスが出ない」が正解だった
レギュラーメンバーの一人の、真っさらなMacBook Pro(DaVinciとCodexしか入っていない)で、連携を最初から。手順はファイル→「AIアシスタントをセットアップ」→インストール済みのアプリ(Codex/Claude)が一覧に出るので選んでOK。デスクトップ版のアプリが必須なのは、この一覧がデスクトップアプリを判別して出すから、です。
ここで冒頭の「アナウンスが出ない」問題。公式動画はClaudeベースで作られていて、Claudeならボタンを押すとインストールまで案内が出る。Codexではその案内が出ないが、中を見に行くと実は入っている。トレーナーは「ここで1時間格闘して、別にできていた」そうです。初めて「DaVinci Resolveを起動して」と頼むと、CodexがDaVinci ResolveのMCPサーバーを使うか許可を求めるダイアログが出て、これを「常に許可」にするか「一度だけ」にするか。以降は初めての種類の作業ごとに聞かれます。
そのうえで「ユニコーンガンダムの動画が入ってるから、ダイジェスト作って」。音声は環境音だけ、ストーリーもない素材です。結果は、16カット60秒、昼の全景→細部→発光→夜のライトアップという時系列つき、Log素材の色変換、現場音の音量調整、始まりと終わりにフェード。「リールですって言われたら全然納得できる」。ただし全カットが2秒前後で均等、という機械的な切り方で、見れば分かる人には分かる。これを嫌うなら、どこが山か先に聞いてから作業に入らせる、工程ごとに1回やり取りを挟む、という使い方がコメント欄から出ていました。
できないことも分かった:APIの範囲
MCPは結局DaVinciのスクリプトAPIを叩いているので、APIにない操作はできません。「タイムラインの中身をごちゃごちゃいじるのはそんなにできない」「Fusionタイトルはインサートしかなく、append(タイムライン末尾に追加)できない」。ただ、配信中にトレーナーが「このセリフの区間にイン点・アウト点を打って」と頼んだら、タイムラインに打てました。できる・できないの切り分けは、動画の中でも参加者が試して確かめる形で進んでいます。
そしてDENDENさんから実務的な提案。毎回同じ作業をチャットで頼むとクレジットがもったいない。一度うまくいったら「今の作業をスクリプト化して保存しておいて」と頼み、次回からはそのスクリプトを使って下準備させる。コメント欄では「似たようなことならスキル化して、と頼むと次回から使える」という声も。
DENDENさんのワークフロー:プロデューサーは人間、ディレクターはAI、編集はCodex
ここからが本題でした。DENDEN株式会社には、広告代理店からデジタルサイネージ用の動画を10本、バナー動画を100本量産、という案件が多いそうです。DENDENさんが組んだ流れは次のとおりです。
- お客様からメール(Outlook)で依頼が来る。素材のZIPが添付されている。
- 24時間メールを監視している常駐型のAIアシスタント(動画内では「ドッツ」)が、メールを読み、ZIPを解凍し、中身を調べる。ディレクターの役割。
- 人間のプロデューサーが構成書(PowerPoint)と条件を渡し、承認する。
- ドッツが遠隔地のMac mini/Mac Studio上のCodexに指示。DaVinciが勝手に立ち上がり、Fusionでモーショングラフィックスを組み、書き出す。
- 書き出しはDropbox Replayへ。バージョンが積まれ、赤入れして戻すとまた直る。
肝はPowerPointの構成書です。カットごとに素材を配置し、ノート欄に「このカットは1秒、ポテトの文字は勢いよく拡大」「後ろの歯車はゆっくり回す」「モーションブラーで躍動感」程度の抽象的な指示を書く。構成書のパーツの座標をAIが理解して、Fusionで組んでくる。「ほぼ一発で9割のクオリティ」。実際に見せてくれたデモ(架空のハンバーガーショップのキャンペーン動画)では、カップの位置がおかしい原因が「自分がマウスを滑らせてズレた構成書を渡していたから。間違いまで正確に再現する」というものでした。
数字も出ました。クレジットは1回あたり約1500円、約15分で完成。本人がAfter Effectsで手作業すると42〜45分くらいの内容。これまで1本数万円で人に頼んでいた「素材の差し替えだけ」の仕事が、なくなった。「残酷ですけど」と本人が言っています。
ただし全部を任せるわけではない。字幕の漢字1文字を直すためにAIのクレジットを使うのはおかしいので、そこは人間がプロジェクトサーバー上の同じファイルを開いて直す。「人間のほうが安い」作業は人間がやる、という共同作業です。
個人プランで預かり素材を扱っていいのか:3段階の線引き
DENDENさんの話で、いちばん持ち帰るべきはここだと思いました。各社の利用契約を読むと、法人向けプランは入出力をサービスの開発・改善に使わない機密保持の仕組みがあり、個人向けプランには「提供・維持・開発・改善等に入出力を利用できる」規定がある(DENDENさんの読み。最新の規約は各社で要確認)。そこから出てきた線引きが次の表です。
| 素材の種類 | 例 | AIを使うか | プラン |
|---|---|---|---|
| 自主制作 | 花火大会の映像、Vlog、個人情報を含まないもの | 使ってよい | 個人プランで問題なし |
| 公開済み素材の再編集 | 配信済みイベントのアーカイブ編集 | お客様の許可を得て使ってよい | 個人プランも可だがセキュリティ設定は必須 |
| 高機密素材 | 金融機関・病院のセミナーなど、参加者しか知り得ない内容 | お客様の許可を取り、法人プランで | 法人(ビジネス/エンタープライズ)プラン必須 |
| 漏れたら人の身に危険が及ぶもの | 被害者インタビュー等 | AIを使わない。クラウドにも上げない | — |
加えてセキュリティ。「サイバー攻撃祭りが1週間前から起こっている」とのことで、二要素認証だけでは足りない前提で、パスキー、多段階の認証、シングルサインオン、国外からのログイン制限(ジオブロック)まで話が及びました。Blackmagic Cloudのパスワード再設定を装うフィッシングで、ワンタイムコードまで抜かれたら収録ファイルも編集ファイルも全部見られる、という例も。預かり素材をGIGAファイル便で送るのはやめましょう、という話も出ています。
→ DENDENさんが遠隔で指示を飛ばしている先のような、MCP専用機を1台置くなら:
この話が向いていそうな人・現場
- インタビュー動画の納品後に「ショート版も」と毎回言われ、SRTを読みながら要点3つに削る作業を週に何本も抱えている編集者
- 家族で出かけたOsmo Pocketの素材が山になっていて、やる気が出ずに眠らせているカメラ好きの方(トレーナーが「ボールで任せてダイジェストを作ってもらって家族に共有、はめっちゃあり」と言っていた使い方)
- 金融・医療のクライアントを持ち、「AI使ってますけど大丈夫ですか」と自分から言えるようにしておきたい制作会社の経営者
まとめ:スペシャリストが減ってゼネラリストが増える、のか
終盤、「編集マンが細かなコマンドを操作する必要はなくなり、求められるのは映像センスをAIへ持ち込むこと」というコメントが読まれました。DENDENさんは「AIは入社3年目くらいの新人。Fusionの使い方を教えなくていいので1年目ではない」。プロデューサーが予算管理だけでなく実務のDaVinciまで触る時代になる、ディレクターは構成書と演出にもっと時間を使う、中途半端なスペシャリストは難しくなる。重い話ですが、トレーナーが「全部任せると人間が成長しないので、自分の知識をアップデートするためにも使う」と言っていたのも、同じ回の中の言葉です。
次回のDRUMは11月19日(木)、Inter BEE 2日目のBlackmagic Designブースでオフライン開催、配信なし。事前登録のフォームはXで告知されるそうです。
→ 構成書と素材をクラウドで渡して、遠隔のDaVinciに拾わせる構成を試すなら:
あわせて読むなら
- スマホのChatGPT dotsからDaVinciにタイムラインを3本組ませてみた回(パンダスタジオの検証) → 記事を読む
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