正直、これはカメラの話というより、ライブ配信の見え方が変わるかもしれない話でした。
韓国・ソウルで開催された KOBA Show 2026。
Blackmagic Designブースで見せてもらったのは、URSA Cine Immersive 100G と Apple Vision Pro を組み合わせたイマーシブ映像のライブ体験デモです。
「イマーシブ映像」と聞くと、ちょっと遠い世界の話に聞こえるかもしれません。
VRっぽいもの?
Apple Vision Pro向けの特別な映像?
まだ一部の人向けの高級コンテンツ?
たしかに、そういう面もあります。
でも今回のデモで面白かったのは、そこではありません。
撮影済みの映像を見るだけではなく、会場内に設置されたカメラの映像を、Apple Vision Proでライブに近い形で体験するという点です。
これは、なかなか強烈です。
Apple Vision Proをかぶると、別の場所に“視点”が移る
デモでは、会場内にBlackmagicのイマーシブカメラが設置されていました。
Apple Vision Proを装着すると、そのカメラの映像を見ることができます。
さらに、別の場所に設置された同じカメラモデルの視点へ切り替えることもできる。
つまり、ただカメラ映像をモニターで見るのではなく、自分の視点そのものが別の場所へ移動するような体験です。
もちろん、完全なリアルタイムではありません。
ライブストリーミングなので、わずかな遅延があります。
担当者の方も、手を振ってみると少し遅れて見える、と説明していました。
このあたりは、通常のライブ配信でも起こる遅延です。
でも、映像を「画面の中のもの」として見るのではなく、自分がその場所に立っているように感じるという意味では、普通の配信とはかなり違います。
これは「カメラ性能」だけの話ではない
Blackmagic Designのカメラというと、どうしても画質、センサー、RAW収録、DaVinci Resolve連携、カラーマネジメントといった話をしたくなります。
もちろん、それも大事です。
でも今回のデモで本当に気になったのは、そこではなく、
このカメラで撮った映像を、誰に、どんな体験として届けるのか
という部分でした。
従来の URSA Cine Immersive は、Apple Vision Pro向けのイマーシブ映像を制作するためのカメラという位置づけです。
つまり、撮影して、編集して、後からVision Proで体験する。
一方で、今回話題に出ていた URSA Cine Immersive 100G は、ライブプロダクション方向に踏み込んだモデルです。
ここが大きい。
後から見るイマーシブ映像ではなく、
いま起きているイベントを、イマーシブに届ける。
この方向に進むと、コンサート、スポーツ、舞台、展示会、企業イベント、カンファレンスの見せ方が変わってきます。
HYBE / LE SSERAFIMのコンサート事例が出てきた意味
説明の中で出てきたのが、HYBE と LE SSERAFIM のコンサート事例です。
ファンがApple Vision Proを装着すると、まるでコンサート会場にいるような体験ができる。
そういうコンテンツとして紹介されていました。
これは非常に分かりやすい使い方です。
ライブ会場に行けない人が、単に平面の配信を見るのではなく、会場に立っているような感覚で見る。
ステージの近くにいるように感じる。
観客席とは違う特別な視点で見る。
もしかすると、通常では入れないカメラ位置からライブを体験できる。
これは、従来の「配信チケット」とは違う価値になります。
今までは、現地参加とオンライン視聴の差はかなり大きかった。
オンラインは便利だけど、現地の熱量には勝てない。
これは多くのイベントでずっとある課題です。
でもイマーシブ配信が進むと、その差を少し詰められるかもしれません。
もちろん、完全に現地と同じにはなりません。
でも「ただ画面で見る」から「その場にいるように見る」へ変わるだけで、体験価値はかなり変わります。
Vision Proの現実的な話も出てきた
一方で、夢のある話だけではありません。
デモの中では、Apple Vision Proの視力補正についても話が出ていました。
Vision Pro自体に、自動で視力を補正する機能があるわけではありません。
視力補正が必要な人は、専用レンズを用意する必要があります。
さらに本体価格も高い。
韓国ウォンでの価格感として、専用レンズが約50万ウォン、本体が約500万ウォンという話も出ていました。
つまり、まだ誰でも気軽に体験できるものではない。
これは現実です。
ただ、こういう機材は最初から一般普及するものではなく、まずはハイエンドなライブ、プレミアムコンテンツ、特別な体験として始まるものだと思います。
コンサートのVIP向け体験。
スポーツの特別視点。
企業イベントのリモート参加。
展示会の遠隔視察。
教育・医療・トレーニング分野の臨場感ある映像。
最初は高価でも、用途が見えれば少しずつ広がっていく可能性があります。
パンダスタジオ的に気になるのは「ライブ配信の次」
パンダスタジオでは、これまでライブ配信、スタジオ構築、機材レンタル、企業向け動画制作など、いろいろな現場を見てきました。
その目線で見ると、今回のBlackmagicのデモは、かなり気になります。
なぜなら、これは単なる新型カメラの話ではなく、
ライブ配信の次に来る体験の話だからです。
いま企業イベントやセミナー、展示会、カンファレンスでは、配信はかなり一般的になりました。
Zoom配信、YouTube Live、ウェビナー、ハイブリッドイベント。
これはもう珍しくありません。
でも、視聴体験としては、まだ基本的に「画面を見る」ことが中心です。
カメラを切り替える。
スライドを見せる。
登壇者を映す。
質疑応答を配信する。
もちろん、それだけでも十分役立ちます。
ただ、今後はさらに先が出てくるはずです。
会場の中を自由に見られる。
登壇者の近くにいるように感じられる。
展示ブースに立っているように見える。
ライブ会場の熱気を、より立体的に感じられる。
今回のURSA Cine Immersive 100GとApple Vision Proのデモは、その入口に見えました。
まだ業務用途では早い。でも、見ておく価値はある
正直に言うと、いま明日からすぐに一般企業の配信現場で使うかと言われると、まだ早いと思います。
Apple Vision Proの普及台数。
視聴環境。
制作コスト。
配信インフラ。
イマーシブ映像に対応した編集・納品ワークフロー。
ハードルはたくさんあります。
でも、こういう技術は「まだ早い」と思っているうちに、いつの間にか一部の現場では始まっていたりします。
4K配信もそうでした。
リモート収録もそうでした。
クラウド編集もそうでした。
最初は一部の人の実験に見えても、数年後には普通の選択肢になっていることがあります。
だからこそ、こういう展示会で実物を見る意味があります。
スペック表だけでは分からない。
ニュースだけではピンと来ない。
でも、実際にVision Proをかぶって、会場内の別視点へ切り替わる体験を見ると、少しだけ未来の輪郭が見えてくる。
Blackmagic Designがここに入ってくる意味
Blackmagic Designがこの領域に入ってくるのも、個人的にはかなり面白いです。
Blackmagicは、カメラだけでなく、スイッチャー、レコーダー、コンバーター、DaVinci Resolveまで持っています。
つまり、撮影から収録、編集、カラー、納品までの流れをかなり広く押さえているメーカーです。
もしイマーシブ映像が本格的にライブやイベントに入ってくるなら、カメラ単体では終わりません。
どう収録するのか。
どうライブで送るのか。
どう監視するのか。
どう編集するのか。
どうアーカイブするのか。
どうVision Pro向けに納品するのか。
このワークフロー全体が必要になります。
BlackmagicがURSA Cine Immersive 100Gのようなモデルを出してくるということは、単なる実験ではなく、イマーシブ映像を制作・ライブプロダクションの流れに乗せようとしているように見えます。
まとめ:これは「未来の配信」の入口かもしれない
今回のKOBA Show 2026で見たBlackmagic Designのデモは、派手な新製品紹介というより、かなり示唆的な内容でした。
Apple Vision Proで、Blackmagicのイマーシブカメラ映像を体験する。
ライブストリーミングには少し遅延がある。
でも、自分がその場所にいるように見える。
従来の制作向けURSA Cine Immersiveから、ライブ向けのURSA Cine Immersive 100Gへ広がっている。
HYBE / LE SSERAFIMのようなコンサート事例も出てきている。
これは、単なるカメラの話ではありません。
現場の臨場感をどう届けるか。
オンライン視聴をどこまで現地体験に近づけられるか。
ライブ配信の次に、何が来るのか。
そういう話です。
まだ普及には時間がかかると思います。
でも、映像制作やライブ配信に関わる人なら、見ておいた方がいい流れです。
パンダスタジオでは、引き続きKOBA Show 2026の現地レポートとして、映像制作・ライブ配信・スタジオ構築・最新映像機材の情報を紹介していきます。